保健師とは
About Public Health Nurse
保健師のお仕事
About Public Health Nurse Job
保健師のお仕事とは
地域住民の保健指導や健康管理が主な仕事。乳幼児から高齢者まで幅広い世代と関わり、健康増進や生活の質の向上をサポートする。保健指導に加え、病気の発症予防や健康づくりの支援、感染症発生時や災害時の住民の健康管理も行う。また、虐待の疑いのある家庭や認知症高齢者の家庭を訪問し相談に乗るなど、社会で果たす役割も大きい。
求められる力
Required power
コミュニケーション力に加え、広範な専門知識も重要
家庭と関係機関とを橋渡しする役割なので、コミュニケーション力は必要不可欠。同時に、個人のライフサイクルにおける健康に関する情報を提供できる広範な専門知識も持っていなければならない。
仕事内容
Job Description
健康相談
各自治体における保健センターや保健所で、住民からの健康相談を受ける。あらゆる年代の、幅広い内容の相談に対応しなくてはならない。医師の治療が必要な病気やケガに対しては、速やかに病院を紹介するなどしてつなげる。
乳幼児健診
生まれたばかりの乳児とその母親の健康に留意することは保健師の仕事でも重要な柱となる。乳幼児への定期的な健診を母親に促す活動も大切である。また、乳幼児の健診から児童虐待などの問題にも対応していく。
生活習慣病予防対策
成人を対象とした生活習慣病に関する啓発活動も保健師の仕事である。医師や栄養士を招いての講座や講演を企画したり、生活習慣病予防のための運動を学ぶ教室を催したり、住民の関心を引く活動を行う。
家庭訪問
妊婦から高齢者まで健康相談に対応する。また、虐待の疑いがある家庭には定期的に訪問し、その予防と早期発見の役割を担う。行政サービスとの調整役として当事者や家族をサポートする。
TOPIC
被災地での公衆衛生指導や心のケア
東日本大震災で活躍した保健師
2011年3月11日に起きた東日本大震災では、各地の行政保健師等が活躍した。原子力発電所事故で避難指示の出た地区(福島県双葉郡、南相馬市)では、避難指示の出た日から20キロ圏内の施設や病院で寝たきりの人たちへの介助や避難のための移送準備などを行うと同時に、避難する住民への被曝スクリーニングも実施。震災の1週間後からは避難所や仮設住宅を巡回して健康相談を行った。また、心のケアチームと合同で精神科医による相談も実施。20キロ圏内の精神科病院や診療所が休診となったため、大学を含む公立医療機関の支援を受けて臨時外来を開設したほか、その後、在宅で暮らす被災者への家庭訪問も行うなど、多くの現場で活躍した。
資格取得のルート
Qualification route
保健師国家試験の合格状況(全国平均)
活躍の場
Place of activity
医療、行政、企業など、活躍の場を選ばない職務
健康の維持・向上が仕事の目的となるため、人がいるところならどこでも活躍できる。年齢に関係なく働けることや産休や育休を取りやすいなど、長期勤務が可能な職業でもある。一方で求人が少ないという問題はあるが、非常勤や派遣という選択もあるため、自分が希望する職場に合わせて知識や技術を磨いておくと安心。
資格取得後のキャリアプラン
Career plan after qualification
行政保健師(都道府県)
いわゆる保健師として広く知られているのは、この行政保健師のこと。都道府県、市区町村の保健所、保健センターで働く公務員。住民の健康な生活をサポートするのが仕事で、仕事内容は広範囲にわたる。高齢化が進む中での介護保険法改正など制度の変化にも対応していかねばならない。公務員試験に合格して採用となるが、産休や育休による代わりの非常勤としての採用などもある。
保健師資格取得
産業保健師
企業内で従業員の健康状態の把握、環境の改善に取り組む。具体的には、従業員が心身ともに健康な状態で勤務でき、休職や退職を減少させることを目的とする。とくに、うつ病などメンタルケア対策では、産業保健師の担う役割が大きい。
養護教諭
学校の保健室などで児童・生徒、教職員の健康管理を行う仕事。また、子どもたちへの健康教育、性教育も行う。大学によっては所定科目の単位を取得し、且つ保健師資格を取得すれば、養護教諭二種免許状を取得できる。また、保健師資格を持つ者が養護教諭養成施設で半年以上学ぶと養護教諭一種免許状を取得することができる。他に養護教諭一種免許状は、養護教諭養成課程のある教育・保健・看護系大学で取得することも可能(短大は二種免許状)。
Voice
Voice
すぐに結果が見える仕事ではない。
家族や地域を巻き込み住民の健康をサポートする
人々のライフサイクルすべての「健康」に関わる仕事
保健師の仕事は、病気になってからではなく予防がポイントです。病気や障害をどう防ぐか。あるいは病気や障害を抱えた時には悪化防止の対策や生活のバックアップ。それが役割となります。基本的には行政機関に所属し、各地域の保健所や保健センターに勤務します。住民の健康管理や指導、健康課題の解決を図ります。最近では、高齢者の施設や企業内の産業保健師として働くことも可能ですし、仕事の場はかなり広がっているのではないでしょうか。
また、健康管理といっても、地域の住民を個別に見るだけではなく、個人から家族へ、家族から地域へと広げることで、住民のライフサイクルすべてに関わっていきます。
ライフサイクルの流れとしては、まず、お母さんと赤ちゃんの母子保健から考えると分かりやすいでしょう。妊娠と診断されたら、そこから保健師との関わりが始まります。妊娠時の体調管理や心配事の相談など、親身になって対応していきます。
そして、無事赤ちゃんが生まれたら、今度は乳幼児健診や3か月健診、1歳半・3歳児健診、予防接種と、様々な形で赤ちゃんの成長を見守りつつ、母親の健康面にも目配りをします。
その際、赤ちゃんに障害はないか、家庭が貧困状態だったり母親に精神疾患があったりはしないかなど、あまり表面には出にくい問題を発見することも大切です。そうした家庭には直接出向いて支援していかなければいけませんから。
そうして赤ちゃんが育っていくと、やがて思春期を迎えます。この時期は身体的な面だけでなく精神面での健康も考えなければなりません。不登校や引きこもりといったケースへの精神的な支援もしていきます。
さらに、成人して社会に出てからも保健師は関わっていきます。成人や高齢者向けの健康診断、生活習慣病予防の教室、最近では認知症も含めた介護の問題が重視されており、認知症予防の教室や介護にあたる家庭に地域包括支援センターやケアマネージャーを紹介するなど、具体的な対処法を提案することもあります。
つまり、ひとりの人間が生まれてから亡くなるまで、あらゆる面で健康であるようサポートをするのが保健師の仕事なのです。
病気になった時は病院にかかりますが、保健師は病気になる前、普段の生活の中で住民の「健康」を守るプロフェッショナルだと考えるといいでしょう。
それだけに、保健師の仕事が具体的な成果として目に見えるまでには時間がかかります。生活習慣病予防のための講習や教室を定期的に開くようになっても、その効果が表れるまでには何年もの期間が必要です。ですから「保健師ってどんなことをしているの?」という人が多いのは、ある意味仕方のないことです。見えない場所での活動なのですから。
生活習慣病の代表格である高血圧にしろ糖尿病にしろ、何もしなければどんどん患者は増加し、医療費もまた増加してしまいます。だからこそ、保健師が日々の活動の中で予防をしていかなければならないのです。
家庭環境を見れば、家族の健康が見えてくる
行政によっても異なりますが、だいたい人口1万人から3万人に対して保健師が1人いるという計算になるでしょうか。もっと少数の住民を相手にしているところもありますし、逆に保健師の数が少ないところもあります。そのあたりは、各自治体が住民の健康をどう考えているかによります。保健師側からすれば、担当する範囲が小さいほうが住民の顔は見えやすいですが、1万人ぐらいなら十分にフォローできる範囲です。どこにどんな家庭があって、その近所の暮らしぶりはどんな感じなのかは把握できます。
また、地域によって違いますが地区担当制と業務担当制の二つがあります。昔は地区担当制が多かったのですが、最近では業務担当制と併用しているところも多いようです。地区担当制では、ある地域の母子保健から高齢者保健対策までを丸ごと見ていきます。業務担当制は、母子保健担当や高齢者担当など、業務ごとに自治体の管轄するすべての地域を対象に見ていくという方式です。
私の場合は、地区担当制のほうがやりがいを感じられますが、逆に業務担当制のほうが仕事をやりやすいという方もいますので、どちらがいいかは簡単に決められません。
朝、職場でミーティングを行い、地区担当制なら、Aさんは「3か月健診」、Bさんは「家庭訪問」と、それぞれ決められた仕事に向かいます。
とくに家庭訪問は保健師にとって大事な仕事の一つです。悩みを抱える母親の多くは、健診では直接言えないものの強くSOSを発している場合が多いんです。すると、こちらから出向いて悩みごとを感知し、対処しないといけない。地域に気になる家庭があれば朝にちらっと確認して、また夕方に訪問することもあります。
ただ、保健師というのは、あくまで健康面での悩みを解決する手立てを提示するのが仕事です。病気を治療するのは医師や看護師の役割であり、保健師は病院や関係機関につないでいくのが役割です。
「見る」「つなぐ」「動かす」といいますが、地域や家族を見て関係機関やグループなどにつながりを持てるようにする。そして、悩みを解消できるような方法がなかった時は、行政に働きかけて何らかの対策案を作っていく。
普段の生活の中で、誰もが保健所や保健センターに足を運んでくれるわけではありません。むしろ、高血圧や糖尿病などのリスクを抱えている人ほど敬遠しがちです。まずは、そうした人たちの目をどのようにして「健康」に向けられるか、その工夫から始まっていきます。
そのためには、やはり個人や家族だけでなく、地域を巻き込んだ活動が必要です。個別に支援するだけではなく地域全体を見て、人と人、家族と家族、そして地域を結びつけていくのです。
社会的弱者への支援も保健師の仕事
保健師の仕事のベースは看護です。それに加えて
地域において、社会的弱者(社会的な力の少ない人たち)に手を差し伸べ、健康面で困ったことがあれば、どのように改善していけばいいのかをともに考え、活動につなげていく。それは、身体的な問題だけでなく家族の暮らし方にも及んでくるわけです。
たとえば、今は核家族化が進み、若いお母さんたちは子育てに大きな不安を抱いています。でも、いくら育児書を読み込んでも、書かれているような育児は容易には行えません。子どもが泣いたり熱を出したりするだけで不安にさいなまれる。ところが、周りにすぐ相談できる人がいる母親はそれほど多くありません。
そうした母親の不安は、そのまま子どもにも伝わってよけい泣いてしまうことがありますし、成長にも影響を及ぼしてくるわけです。だから保健師が家庭を訪問して話を聞く。あるいは若いお母さんたちのいる子育てサークルなどを紹介する。同じような境遇のお母さんたちの話を聞くだけで、とても楽になるものなんです。
近年、ネグレクト(育児放棄)を含む児童虐待が問題となっていますが、そんな家庭の親たちは決して「ひどい親」ばかりではありません。親も後悔しながら、それでも虐待してしまうケースがたくさんあるのです。
前述のような不安を抱えた親が周囲に溶け込めず、子どもにその鬱うっ憤ぷんが向いていく―「親が悪い」と糾弾するだけでは解決しない問題だと思います。その時に、私たち保健師が親の気持ちを救い上げられるように努めることも必要です。
児童の虐待問題では児童相談所と連携しながらサポートをします。親との関係を密にして、どうしたらいいかを一緒に考えるのです。
ほかには、家族に難病の人がいる場合も、どのようなニーズがあるのかを聞き出します。行政にサポートするサービスがあるなら紹介し、ない場合には当事者と一緒に考えなければなりません。同じようなニーズを持つ人たちが集まって行政に対して要望を出すといった活動を支えることもあります。
訪問して話を聞くだけで安心感を与えるワザ
私は、幼い時に身体が弱かったため、病院にかかることも多くて、薬剤師さんが乳鉢で薬を調合するのをじっと見ていることもありました。そのため、その頃は薬剤師さんになりたいと思っていました。
高校に入ってからも医療関係に進みたいという気持ちが残っていたため、いろいろ考えて看護師になるための学校に通うことにしました。そして、学校の実習に保健所実習があり、私は保健師さんの家庭訪問についていくことになったんです。
すると、ある家庭で育児中の母親が育児不安を訴えかけてきました。でも、保健師さんは赤ちゃんの体重を量って、あとは母親と話をしているだけ。その時、私はとくに不安を解消するような話題ではないなと思っていたんです。
ところが、保健師さんが帰る頃には母親の表情が明るくなっていました。「ただしゃべっていただけなのに、これは何だろう」と驚きました。それからよく考えてみると、何気ない会話の中にも母親の訴えをきちんと受け止めてフィードバックしていたんですよね。そう考えたら保健師さんからすごいオーラを感じて「保健師って面白そう」って思ったんです。
こうして私も保健師になったのですが、学校で学んだことはあくまで保健師として最低限、身につけなければならないことでしかありませんでした。
初めて家庭訪問に行った時のことです。今でも覚えていますが、その家庭には20歳の女性がいて、幼い頃の脳性麻痺で就学もできずにいました。話してみると本人は外出したがっていたのですが、父親は外に出したくないという。どうしたら女の子の願いをかなえられるのか、先輩に意見を聞いたり両親や本人と何度も話し合ったりしました。各家庭の悩みはそれぞれ違うので、誰にでもあてはまる「正解」などないわけです。ですから、問題にぶつかるたびに様々な分野について勉強しました。
保健師というのは、住民の方々に育ててもらうものだと痛感したのです。
私は30年間、保健師として働いてきましたが、時代とともに「健康」というものが指し示す範囲が変わってきています。出産や子育てなどは昔からありますが、生活習慣病対策や認知症対策などは、ここ十数年で急激に増えてきた問題です。
子どもの虐待にしても、かつてのように近所の人たちがすぐに分かるような形ではなく、家庭の中に隠れてしまっているケースも増えています。
ただ、そのような変化はあっても、地域の健康問題に携わるという保健師の役割そのものには変わりはありません。
社会全般へと目を向け「気づき」を得る
保健師に向いているのは、いろいろなことに関心を持てる人でしょうか。人のことや世の中の動き、社会のことなどに目を向けている人。もちろん、深い知識も必要ですが、それは問題に直面した際に改めて学べばいい。それよりは、関心を持って見つめる目を持つことが大切だと思います。
そのためにも、学生の時にはいろいろな人と接する機会を持ったほうがいいでしょう。サークル活動でもいいし、アルバイトでもボランティアでもいい。人と多く接しているのといないのとでは、現場に出た時に大きな差となってきます。こればかりは学校で教わるというよりも、日々の生活の中で学んでいくことだと思います。
また、保健師には教科書に書かれた情報だけでなく「生きた知識」が要求されます。生まれたばかりの赤ちゃんが正常かどうか、発達に問題はないか、母親に産後うつなどの症状は見られないか。そうした「気づき」を得るには、ある程度の経験に裏打ちされた知識が必要となります。
昔は保健師といえばほとんど女性でしたが、最近では男性の保健師も増えています。とはいえ全体の2%ほどですから、まだまだ少ないですね(厚生労働省によると2014年の就業保健師で男性が占める割合は1・9%)。場面によっては男性のほうが適していることもあるので、もっと増えてもいいでしょう。
保健師をしていてやりがいを感じたのは、個人の問題を地域の問題に広げ、成果が上がった時です。
たとえば患者会や家族会を作ったり地域での健康教育を企画したり、講習会や学習会を催したり。そうした活動は広報や貼り紙で告知していきます。
そうして地道に実施していくと、時間はかかりますが、個人が変わり家族が変わり、そして地域が変わっていきます。時には行政が政策として取り入れることもあるので、どこまでも広がりを持つ仕事だといえるでしょう。
このように自分の仕事が社会全体の変化につながっていくという実感を得られるのは、保健師だからこそ味わえる醍醐味かもしれません。
森ノ宮医療大学 大巻悦子 教授